人間は何のために生きるのか ー目的論的自然観の今日的意義ー

1.目的論的自然観と機械論的自然観

2.目的論的自然観に見る死生観
3.両自然観の妥当性について

1.目的論的自然観と機械論的自然観

 歴史的に人類は大きく分けて、2つの自然観というのを見出した。一つが、目的論的自然観であり、もう一つが機械論的自然観である。自然科学が優位になるにつれて、我々が自然界を見る時は、機械論的自然観に依存するようになった。前者の目的論的自然観は、まだ科学が十分に発達しきっていなかったギリシア時代に、アリストテレスが提唱したとされる自然観である。中世のキリスト教でも、この目的論による自然観が主流の考えであった。しかし、ガリレオが地動説に気が付き、更にデカルトへと時代が下ると、従来の目的論的自然観は科学的でないとされて、退けられてしまった。そして、こんにちに至っては目的論的自然観というものがそもそも自然観として存在していない概念として受け止められているように思われる。科学は我々に多大な恩恵を与えてきたし、それを支えてきたのが機械論的な自然観だったと言っても過言ではないだろう。しかし、宗教の権威が失墜し、機械論だけが残された現代人は“虚無”という現実に打ちひしがれることになる。特に宗教活動が本質的な意味で一般的でない日本においては、その傾向が顕著なのかもしれない。


2.目的論的自然観に見る死生観

 そんな現代社会に新たな可能性を示してくれるのが、目的論的自然観ではないかと私は考える。機械論的自然観においては、科学を以てして、“自然界”を突き詰め過ぎた結果、我々は気付いてしまったのである。我々の前に存在するのは、無限に広がる「虚無の海」であると。つまり、機械論的自然観は我々に対して部分的かつ物質的な問に答えこそすれ、究極的な問には、何の手がかりも示してはくれないのである。だから「今こそ、宗教に入信しましょう!」というのでは、早合点も良いところだ。宗教の問題については、日を改めて記して置きたいとは思っているが、此処で私は「目的論的自然観」に目を向けることにした。そして、人間にとって最も身近で且つ究極的な問を探してみた。それは、恐らく「人間は、なぜ生まれ、何のために生きているのか」という問である。無論、この問に対して機械論的自然観は一切の示唆を与えてはくれない。では、目的論的自然観はどうであろうか。先ず、「リンゴはなぜ落下するのか」という問に応じてみよう。ニュートンに言わせてみれば、万有引力があるからに決まっているのだが、アリストテレスに言わせてみれば、リンゴが落下する目的を持っているのであって、その目的というのは新たにリンゴの木を生み出すためかもしれないし、もっというと子孫を残すためである。次に先程の「人間は、なぜ生まれ、何のために生きているのか」という問に目的論的自然観によって応じてみよう。私は次のような応答を導き出した。「人間は、生きるために生まれ、死ぬために生きている」のである。一見すると、何の解決にもなっていないように思われるが、此処で重要なことに気がつく。それは、我々自身が日々多かれ少なかれ「死」という究極的な瞬間に接近しつつあるのだ。だからこそ、我々は「善き死」を迎えるべく日々を生きているのであり、「善き死」とは自分にとって何なのかということを思索し続ける必要性がある。例えば、武士やイスラムの戦士たちが殆ど躊躇うことなく、「生」というものを捨ててまで、「死」を選ぶのにはこの「善き死」という概念が本人たちの心のどこかに存在しているからに他ならない。(無論、彼らのそのような死が、必ずしも我々にとって「善きもの」であるかは疑問である)

 だからこそ、我々はその究極の目的に向かって修養し続け、自分にとってその究極の目的のありようは何たるかと云うことを思索し続けなければならない。


3.両自然観の妥当性

 此処まで、科学が隆盛を極める時代に在って、我々現代人は機械論的自然観という物差しにしか目を向けない傾向にあるが、この自然観は究極的な問に一切応じないということを述べた。そこで、目的論的自然観という今や捨てられつつある物差しを提供した。もちろん、この自然観もまた、万能とは言えない。しかし、AIなどが発達し人間のあり方がより問われて来る時代が到来しつつあることを鑑みれば、過去の遺物となっている目的論的自然観が今日的な意義を持つのではないだろうか。


(記:Y氏)

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